MMM2016 コンペティション受賞作品

大賞

「構造の表象」 後藤 宙

百華蔵の壁にある木の連なり、梁、鉄扉、排水溝、開口部らしき鉄格子。この空間の印象を決定付けるのは間違いなく壁の木の連なりである。

私はとにかくこれと対峙することを考えた。

無口でいて饒舌な場の要請を捉え、逃さないように手を動かす。場は完成を待つ。私は手を動かす。

シンプルだ。

しかしこのセッションは始まりながらに完成しつつ終わりを迎えると同時に過去のものとなる。
それゆえ作品の完成は実は私の時間の中にしかないかも知れない。だが、ここにある事物のコントラストにしか対峙の軌跡を語ることはできない。

複雑だ。

選評

まず、作品として圧倒的。それは、細部の作り込みを含めた作品自体の完成度の高さや、蔵という空間をダイナミックに使っていたりと、まさにここでしかできない、見ることができない作品だと感じた。それだけでなく、この作品を鑑賞していると、作家自身が楽しんで作ったのだろう、ということも伝わってきて、見ているこちらもすごくわくわくした。ただひとつ言うなら、蔵と作品と(更に言うなら作家を含めた)の関係性は絶妙だったと思うが、那珂湊との関係性としては弱いところはあったかと思う。
しかしそういった弱さをも凌駕するサイトスペシフィックな作品であることには間違いない。運営陣共に満場一致の大賞であった。

審査員特別賞

「halo003」 ろくいち

那珂湊の街には海があり、海の音がある。
それがこの街の人にとっての日常ではないだろうか。

那珂湊の海を見たとき、私たちの作業部屋のそばを走る環状七号線が想起された。
ある時、環七を行き交う車の音が、寄せては返す波の音のように感じられた。

それは私たちに浸透した日常の音であるように思えた。

双方の音を光の波紋で可視化し空間に満たしてみようと思う、そこに何か気づきがあるかもしれない。

選評

「那珂湊」に寄りすぎている作品が多い中、「作業部屋のそばの環七の音」という作家自身らのホームと「那珂湊」を対峙させたことに好感を覚えた。また、今回のテーマでもある「浸透」というテーマにも一番寄り添っていたのではないかと思う。
表現としては、波の音と環七の音が交差するさまや、光の波紋が音によって変わっていくさまは、見ていると宙に浮いたような不思議な感覚になった。そして、更に言うとそれが心地の良い空間を形作っていたと思うのだが、完全暗室ではなかったのが残念であった。

SSS(Special award from Students and Supervisor)賞, ひたちなか商工会議所那珂湊ブロック賞

「プラスチック プラクティス」 臼田 那智

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]那珂湊で300年の歴史を誇る八朔祭りは、今年から隔年での開催が決まった。
八朔祭りの取材を通し、伝統への理解や、伝統を守ることがなぜ大切であるのかを、考えるようになった。
映像で見る、八朔祭りに参加する子どもたちはとても無邪気で、きっと祭りの意味は分からない。
しかし毎年参加することで、子どもたちの心の中に「伝統」が根付いていくのか。
八朔祭りをよく知らない、よそ者の私が作る風流物の山車は、きっと中身のない見せかけのものになるだろう。
形から入ることで、伝統を築くことが出来るなら、見せかけの山車をつくるという行為が、少しでも多くの町の人にとっての、八朔祭りや伝統を再考するきっかけになれば良いと願う。 [/hidden]

ひたちなか海浜鉄道賞

「あなたの隣」 白石 綾

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
身の回りには様々な生き物が存在する。
私達は当たり前のように人を中心に世界を考え、行動するが、
他の生き物から見たとき、私たちは世界の一部でしかない。
あなた(と私)の隣にいるものと、その関係性について考えてみたいと思う。 [/hidden]

おらが湊鐵道応援団賞

「カモメをつくろう 2016」 松井 ゆめ

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
このワークショップは、「湊線沿線地域の恵まれた自然環境」「そこで暮らす人々」の間に
作家が入り"土地の廃材< 流木>"を用いて地域に根付く風景を再構築する事です。
海沿いを中心とした土地の魅力を改めて再発見し、
素晴らしい湊線沿線の風景を個々の記憶に浸透させることが目的です。
地域住民と作家がアートによって交流し、
共同の労働(制作)を通じてでしか得られない喜びこそが
地域に根付くアートイベントの最大の役割ともいえるでしょう。
その感性を生む為のワークショップ(インスタレーション展示)にします。
[/hidden]

まちづくり3710実行委員会賞

「episode」 山本 大樹

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
みなと線沿線地域で、3ヶ月間に渡って高校生のポートレイトを制作。現在この場所に生きる少年たちとの対話から、彼らの物語の断片を捉える。 [/hidden]

ドゥナイトマーケット実行委員会賞

「き、こえ。ないのは、誰か」 ツチ屋 サユリ

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
日本という国は、“みえないこと化”が浸透しやすい国だと思う。共同体としての協調性を重視し、個人としての存在や意見が目立つことは避けたがる。その精神は時に、出来事の本質をみえづらくさせてしまう。
一体何がその精神を私たちの中に生み出すのか。
みえなくなったものを、もう一度みることは出来るのか。[/hidden]

那珂湊焼きそば大学院賞

「飛松・飛梅伝説」 小山 和則

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
「那珂湊」を象徴する湊公園の「松」と天満宮のシンボル「梅」を、「松竹梅」仲間の「竹」で表現します。

「天満宮」は、学問の神様「菅原道真公」を祭神とし、神紋は「梅の花」です。
「東風(こち)吹かば にほひをこせよ 梅の花 主なしとて 春な忘るそ」とは、道真公の有名な歌です。
「飛梅・飛松伝説」によると、この梅が、菅原公を追って九州まで飛び、太宰府に降り立ったとされています。
また、梅と共に飛び立った松は、途中で力尽き、神戸市須磨区にある飛松岡に根を下ろしたとのことです。

夏の展示期間中、この「竹の網」にかかった、木の葉や花びらや虫たちも、共に作品の一部となり、時の流れとともに、作品は変貌を続けます。 [/hidden]

みなとみらいプロジェクト実行委員会賞

「那珂湊松物語」 木内 祐子

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
私たちはいつも、何か目に見えないものに取り巻かれているように思う。それらは土地の人々の価値観や思想の蓄積だったりするかもしれない。そのような存在を、江戸時代から那珂湊を見守り続けている湊御殿の松の精として擬人化し、人々の前に現れるというフィクションを作成した。 松の精は無条件に助けてくれたり、共通の財産として未来への発展のきっかけを与えてくれる一方で、 おせっかいであるために、時にわずらわしさを感じさせたりする。けれど松の精が一生懸命なのは、人々が「那珂湊が好き」だからであろうと想像する。

出演:川崎達也さん、白土能史さん、飛田豪さん、松本真弓さん
ロケ地協力:稲葉屋菓子店、ひたちなか海浜鉄道那珂湊駅、明石屋 安源七商店[/hidden]

那珂湊本町通り商店街振興組合賞

「対峙した 場所」 森田 柾

[hidden hide=NULL open=”▼キャプションを表示する” close=”▲キャプションを隠す” button=”a”]
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那珂湊に行き最も印象を受けたもの”列車”を題材としている。そして列車に対峙するものを今回の作品とする。
列車と向き合うように設置することで見る人は作品だけでなく列車も見つめることを目的とし、那珂湊について考えるきっかけづくりとしている。[/hidden]


総評

ここに来たのは作家として参加した初年度以来8年ぶりくらいだが、以前と変わらず町の方たちは温かく迎えてくれ、故郷に帰ってきたような気持ちになった。運営の学生たちもプロジェクトを円滑に進めようと色々な工夫をしながら頑張っていたように思う。また、蔵を使った作品展示は私の時には無かったので、空間の使い方含めてとても面白く見させて頂いた。
全体的な作品の印象としては、後藤さんをはじめとした、臼田さんや、森田さんはダイナミックにここでしかないことを追求されていたかと思う。やはり、こういったアートプロジェクトでは空間の使い方が鍵になると、改めて私も勉強になった。
少し厳しいことを言わせてもらうとするならば、作家自らが選んだにも関わらず空間を上手く使い切れていないか、もしくは負けてしまっていたり、作品自体も全体的に小さくまとまってしまった印象があった。もっとダイナミックに空間を使った作品が増えても良いと思う。また、審査員賞でも書いたが、「那珂湊」という場所性にダイレクトに寄りすぎている作品が大多数を占めていた。地域のアートプロジェクトである以上ある程度はその土地に寄せていくことは大事だが、それが大多数を占めてしまうと、その地域外から来た鑑賞者は少々排他的な印象を受けてしまうのではないか。特に小規模だと。
最後に、駅から離れた作品がある中、そこまで行くという動線がわかりづらかったのも課題の一つであると思う。
来年の作品はどうなるか、とても期待しています。

海老原祥子

写真家・美術家
2009年 第1回みなとメディアミュージアム出展
2013年 キヤノン写真新世紀 優秀賞(清水穣選)
2015年 第19回文化庁メディア芸術祭 審査委員推薦作品


過去の受賞作家

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