アーツカウンシル東京で「アートイベントの評価」について伺いました!
こんにちは!みなとメディアミュージアム(MMM)は今年10周年になります。10周年は記念の節目でもあり、振り返りの時でもあります。MMMも2017年度は目標設定をし、指標を立てたり、エピソードを収集したりと評価にチャレンジした年でした。
今後、MMMはアートプロジェクトとして、評価を継続して行うにはどうしたらいいのか。活動を改善し、価値を伝えていくにはどうしたらいいのか。持続性を保つにはどうしたらいいのか。悩んだMMMスタッフはアーツカウンシル東京にお話を伺うことにしました。
アーツカウンシル東京とは?
「アーツカウンシル東京」は、東京を中心に芸術文化活動を支える人材の育成や、国際的な芸術文化交流の推進等に取り組む組織です。事業の一つである「東京アートポイント計画」は、地域社会を担うNPOとアートプロジェクトを展開することで、無数の「アートポイント」を生み出す取り組み。日常の営みに穏やかに寄り添い、まち・人・活動をつなぐアートプロジェクトを実施し、その担い手となるNPO育成や活動基盤を整えながら、東京の多様な魅力の創造・発信を目指しています。
また、「Tokyo Art Research Lab(TARL)」という活動と連動し、アートプロジェクトの担い手を育成するスクールプログラム「思考と技術と対話の学校」や、事業の記録や評価を見据えた運営手法を研究・開発し、そのメソッドを広く社会に開いています。
今回はMMMの代表含む3人で、東京アートポイント計画を担当するお二人にお話を伺いました。MMMで実際に評価に取り組んだ中で、出てきた悩みを相談させていただき、学んだことをこの記事ではまとめていきます。
小規模アートプロジェクトの「評価」
まず出た話題は、MMMのような比較的小規模なアートプロジェクトを、どのように評価すべきか、ということ。世間で有名な、予算規模数億円の大きなアートプロジェクト(新潟の大地の芸術祭や、瀬戸内国際芸術祭など)と比べ、予算規模100万円程度の小さなアートプロジェクトは、経済効果などをあげにくいのが現状です。しかし、アートによる活動には様々な意図しない波及効果、インパクトが期待できます。どのような価値や成果を出しているか、「評価」を行うことで明らかにしていくことが重要です。成果を測ることができれば、改善することができ、活動の持続性にもつながっていきます。
「種は船」と「船は種」の事例
アートプロジェクトの評価は様々な形で実践されています。おもしろい事例の一つが、舞鶴の「種は船プロジェクト」です。船をつくり、舞鶴から新潟へと航海しながら各地でワークショップなどを行っていました。
このプロジェクトの評価は、地域文化に関する情報とプロジェクト(recip)を中心に、「船は種」というプロジェクトで実施されました。「種は船」の記録、評価を実施するのが「船は種」という構図です。
陸路から船の航海を追いかけ、ワークショップの記録を行ったり、プロジェクトの実施地域や地域でのインタビュー、アンケートを実施していたといいます。多様な観点からの記録を集めるため、誰であっても記録映像を手軽に残せる仕組みづくりを行ったり、そうした記録を囲んで語り合うなどの活動があったようです。外部のメンバーでありながら、実際に活動に加わって関係者と距離を近づけることにより、既存のメンバーから新たに語られる物事があるといいます。
この「船は種」という評価プロジェクトは、元々あった「種は船」プロジェクトとは全く別個に、外部のメンバーによって実行されました。記録や評価そのものも、独立したプロジェクトになり得る。それくらいの幅や価値があるということが示されました。
活動を行いながら評価するためには?
一方、私達が行うMMMのようなプロジェクトでは、「活動を行うメンバーが自ら評価をする」というアプローチで、どのようなことができるかを考えてきました。社会的評価インパクトの手法などを用いながら、KPIを設定して評価を行うことや、活動による派生効果を知るため、エピソードを細かく集めてみることなどもしました。こうした活動をよりうまく進めていくにはどうしたらいいのでしょうか。
今回伺ったお話では、そもそも目的を議論するプロセスが非常に重要であることが指摘されました。自分たちで議論し、なぜやるのかを明確にし、そしてなぜ評価が必要かということを確認しておかないと、「忙しいのに評価というタスクが増えた…」となるだけです。これではうまくいきません。逆に、目標が自分ごと化されていれば、身の回りで起こっている色々な事象を「あ!これは良い出来事だ」「これもひとつの成果だ!」と意味付けできるようになっていきます。
評価という言葉を使わないことも重要だというお話がありました。アートプロジェクトの運営をしていれば、「評価」というワードは「ああ、たしかにやらなきゃ!」という反応に結びつきがちです。しかし「やらなきゃ」という義務感では、前述の通り評価はうまく進みません。あえて評価という言葉を使わずに、なぜそれがそもそも必要なのかから考えていくことが大切です。
活動が終われば形がなくなってしまうことが多いアートプロジェクトでは、「アーカイブ」が重要視されています。単に活動でやったこと(=アウトプット)だけを記録するだけでなく、それによって成果が出たか(=アウトカム)や、どんな派生効果(=インパクト)が生まれたのかを記録するためには、組織のメンバーや関係者が、各々手軽に記録を行える仕組みとモチベーションが重要です。アーカイブは、活動をその後振り返って長期的な評価をする時に、記憶を喚起する良い手がかりとなります。
MMMでも記録集やポスターという形で、活動の記録のアーカイブを行っています。
評価そのものを目的にする
目的を議論することが大事であることはもちろん、そのプロセスや文化が、組織に定着しているかどうかも重要です。組織の「目標」として、「目標の設定や議論のプロセス」を設定することも良い手段だといいます。例えば、「このアートプロジェクトの目標は、『目標を自ら議論し設定し、実験をする場を用意すること』です」という形で明記してしまうのです。
目標設定、つまりはビジョンやミッションの設定というと、未来永劫変わらない固定のものをイメージしてしまいます。しかし、往々にして活動を続けていく中で外部の環境は変化していきます。これまで立てていた活動目標が古いものになってしまう、もはや目指す意味がないものになってしまう、ということもあるでしょう。活動の持続性を重視するならば、外部環境に合わせ適応し、目標をその都度立てていく力が重要になります。仮説を立て、修正しながら進歩していくイメージです。
MMMは学生主体の運営が特徴です。毎年新しいメンバーが加わり、そして卒業していきます。その中で、メンバーが自ら目標を立てて、自分ごと化しながら活動することで学んでいく…という流れができれば素敵だな、と思いました。
アートプロジェクトが続くためには
残したいという意思
今回は、「アートプロジェクトの評価」というテーマに合わせ、「アートイベントが続いていくためには何が大切か」というお話も伺いました。多くの事例を見る中で、例えばNPOとして施設の指定管理を獲得したり、事業を受託して安定化していくことなどが、継続の手段として存在するようです。
しかし、まず大切なのは本当に残したいという意思があるということ。それがあることにより、様々な手段を講じ結果的に活動が続いていくのだといいます。組織が自らの目標や役割などの譲れないもの、「魂」のようなものを意識していることで、例え一つの協力者との関係が切れて資金が不足し、規模が小さくなることがあっても、さまざまに形を変えながらも、続けていけるのです。
アートプロジェクトに資金の問題は付きもの。必ずしも営利ではないアートプロジェクトの活動は、様々な形での資金調達が重要となります。ともすれば、主要な協力者、パトロンに依存するような形になりがちです。
例えば行政との連携はよくあるパターンのひとつです。「行政に依存してしまっていて続くか心配だ」と受け身の体勢になることもあります。ですが、逆に「行政と連携し公的な活動になることに明確に意義を見出す」という積極的な姿勢が大切だといいます。これはつまり、地域や行政とのかかわりの中での「プロジェクト、メンバーの役割」をしっかりと定めているということです。何でも屋になることなく、明確に目指すものを定めることで、行政や地域の方々など、様々な関係者と対等にやりとりし、大きい価値を生み出していくことができます。
適正規模を理解することで続く
そうして活動を続ける中で、「適正規模」を理解することができるかどうかが、「やってみる」から「続ける」というプロセスに入れるかの分かれ目になるといいます。
例えば、資金調達や営利活動がうまくいき、どんどん稼げるようになったプロジェクトも、徐々に忙しくなっていき、活動がつらくなってしまうことがあるようです。「色々やってみたけど、そこまでの規模は必要ないのではないか」、あるいは「本当にやりたいことと比べるとまだまだ小さい」など、3~4年仮説を持って活動を実践していく中で、見えてくるものがあります。色々な活動の中で、明確に「この活動を確実に続けていける地盤を固めておこう!」という選択をとることで持続性を高めっていったアートプロジェクトの事例もあるようでした。
以上、アーツカウンシル東京でお話を伺い、MMMが学んだことのまとめでした。お忙しい中時間を割いていただいたアーツカウンシル東京のおふたりに感謝いたします!
MMMの関係者を始め、アートプロジェクトや非営利組織の運営に関わる方々などの役に立てばと思います。