MMM2019アーカイブ連載第四回 佐々木樹

こんにちは!MMMです。アーカイブ連載第四回です!

MMM2019アーカイブ連載は、MMM2019に参加した作家の方々が、「自分の作品について」や、「実際に展示するまで」を振り返って、書き下ろしのテキストを毎週金曜日に公開していく連載企画です!

作品を実際に見た人はもちろん、MMMって何?という人でも、作家さんの作品制作の裏側を覗いて見てください!

今回は佐々木樹さん。展示された「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」は、那珂湊高校生へのアンケートやインタビューをしながら制作されたんです。また、MMM2019の大賞を受賞された方でもあるんですよ。

佐々木さんの思考を覗いてみましょう…!

「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」 湊公園にて。

「うれい」と「あわい」の線に導かれて


“中間性はひとつの「うれい」であるかもしれない。自己決定性がうばわれて、あいまいさにたゆたう領域。たとえばいま東京で満開のさくらなども、ぼくの視覚が特殊なのか、その花がさくら色にみえたためしなどない。”

阿部嘉昭(2014)『換喩詩学』p127


大学での職務を終えて、帰路にある最寄駅近くの喫茶店にて本文の導きを考えている。冷めたアメリカンコーヒーを口にしながら、電子辞書の画面に表示された「うれい」を反芻してみる。(これより少しばかり内省的になることをここにお許し願いたい)

「心」を表す「うら(うれ)」が語源となっている言葉として、「うれい(憂い/愁い)」はある。「憂い」は何か心配ごとや悩みなどが主である時に、「愁い」は何らかの悲しみや寂しさが主であるときに区分けされて用いられることが多い。「うれい(憂い/憂い)」と同様に,「嬉しい」という言葉や、「うらめしい(恨めしい)」、「うらやましい(羨ましい)」なども「心」の意の「うれ(うら)」が語源となっている。「うれい」に向かってもう少しジャンプしてみよう。

私たちが自分以外の存在とコミュニケーションを図る時、仮に最小構成単位の二人だとしても“あいだ”をとることはとても難しい。例えば君がある誰かとランチをしようとした時のことを考えてみよう。ある誰かは味噌ラーメンが食べたいが、君はオムライスが食べたい。この時の二人がとれる選択肢は、①どちらか一方の希望に合わせる ②全く別の選択肢を二人で考える ③“あいだ”をとろうとする、のいずれかであることがほとんどであろう。(これら以外の選択肢をとることのできる君たちはこっそり今度わたしに教えて欲しい) ①を選ぶ君にはまず何よりその思いやりの精神に敬意を示すが、君は失われた君の欲求をどのように消化/昇華するのだろうか。②を選ぶ君は①の選択の場合によって生じる可能性のある欲求不満に気づいているのかもしれない。(意識的か無意識的かは別として) しかしながらその優しい痛み分けの行く末にお互いの不安が発生した時、君はどのように対処するだろうか。③を選ぶ民主的な教育を受けた君たちの多くは何とかして二人の欲求の共通項を探そうとするだろう。しかしながら導き出される提案が果たして“あいだ” をとったと言えるだろうか。ある誰かが食べたい味噌ラーメンと君が食べたいオムライスの“あいだ”が、上位カテゴリーに所属する曖昧なものに向かうことに対して、君自身はどう感じるのだろうか。コミュニケーションにおけるわたしの関心はここにあり、ここに二重の「うれい」を感じる。“あいだ”は漢字におこすと「間」となることは自明のことであるが、わたしがあえて“あいだ”と平仮名にひらいたことには理由がある。それは古語における「間(あわい)」の存在である。ここに、「うれい」に向かってジャンプしたわたしを別の領域に跳ね返してくれるトランポリンのような物体がある。


自然のなかを歩くことで、自分が環境と「か身交ふ」状態が起こり、意識が「内」と「外」との「あわい」にたゆたうようになります。身体を媒介に自己と環境が交わり、環境の影響を受けて、意識が変化してくるのです。

安田登(2013)『あわいの力「心の時代」の次を生きる』p227


「間(あわい)」は向かい合うものの“あいだ”とその関係を指す言葉であり、前述の「うれい」の例を借りると、ほのかに感じられる状態や程度を指す「淡い(あわい)」と同音の言葉である。この二重の「あわい」の意味合いは、冒頭の中間性とわたしが本展の制作におけるわたしの意図に結びつけることができる。わたしが本展の制作で目指したものは、前述のコミュニケーションの問題における①、②、③の選択肢をそれぞれ試しながら、個々人にある二重の「あわい」を重ね合わせていき、それらを作品の内から外に、外から内に反映させることにあった。わたしの制作ならび研究は中間性としばしば同義の意味合いを与えられる、中間領域(Zwischenreich/in-between realm)と呼ばれる概念への関心から生じている。中間領域は簡潔に言うと、能動/受動・主体/客体(active/passive)の間にある空間ないし状態を指すもので、現代においては、中動態(middle voice)や再帰性(reflexive) 、間主観性(intersubjectivity)などに展開されて語られることが多く見られる概念である。導入のためにより広義的に考えれば、多くの人々が一般的に知っている「媒介」を指すメディア(media)と同義とも言えるが、ここでわたしが明らかにしたいのはこの意のことではない。

再び冷めたアメリカンコーヒーを口にする。べっこう色を纏った底が少し揺れている。「うれい」に向かってジャンプした先にある「あわい」の力を借りて線を引いてみる。

「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」
第一田中後南公園にて。

本展に参加にあたり、“間”に入ることに努めた。制作のマテリアルについても個人の想像力のみで構成する方法ではなく、アンケート調査によって知り得た情報のみを活用した。また制作についてもわたし単独のものではなく、実行委員の意見も尊重しながら進めた。制作の中で選択を強いられた際には、なるべくわたし単独による意思決定は避けることに努め、あくまで一個人の意思として伝えることを心がけた。冒頭の引用文のように自己決定性が奪われることが中間性だとすれば、本展においてわたしは「うれい」の中に入ろうとしたのである。「うれい」の中に入っていこうとすることによって、はじめて「あわい」というものの存在をほのかに感じる時に出会った。わたし自身が保持していた/し続けたい/している感覚を、ある誰かの意見やある場所の風景が思い起こさせてくれたのである。そしてその時、わたしの視覚が特殊なのかもしれないが、ある誰かは目の前にいる高校生の君、商店街の君、実行委員の君になり、ある場所は高校になり、自転車屋になり、二階建てのアパートの前の駐車場になった。

わたしは「うれい」を持って「あわい」を探し続け、本展で関わりを持った君たちやこれから出会う人々や場所にある結ぼれを解くための存在になりたい。本展はわたしがこうした意志を持ち続けようとする契機となった。意志された行為には“そうしないでおくこともできた行為”という二重性が無条件にあるが、わたしは“そうしないでおくこともできた行為”に抗って、蒔いた関わりの種を育てていきたいと思う。

 2020年1月17日 (金) 21:06

 シャノアール江古田店の喫煙席にて

佐々木 樹

「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」
海門町ふれあい公園にて。

佐々木樹

●プロフィール
詩人/U.N.I.T.主催
2015年 法政大学社会学部社会学科 卒業
2017年 日本大学大学院芸術学研究科文芸学専攻 修了
2018年より現在 大正大学心理社会学部人間科学科 副手
■展示歴
Exhibition Design Art of Asian Regionality and Climate 2018, PhnomPenh, Cambodia.
Weinetiketten Trienarre Erbacham Rhein Sommer 2019, Land Hessen, Deutschland.
■受賞歴
Kunstler – Etiketten Wein Spezielle Japanische Ausgabe, Winzervon Erbache G, Land Hessen, Deutschland, 2019.


来週2/14(金)の第五回は、君嶋海裕さんです。君嶋さんの作品は子供でも遊べるような積み木型の作品で、中学生とWSを行ったりひたちなか市産業交流フェアで出展したりと、MMMを越えて広がっているんです。お楽しみに!

■みなとメディアミュージアムとは

みなとメディアミュージアム(以下、MMM)は、茨城県ひたちなか市ひたちなか海浜鉄道湊線沿線を舞台に開催する地域アートプロジェクトです。 毎年、全国からアーティストを募集し、厳正な審査を経て、出展者と作品を選出します。出展された作品は会期中(8月中、約3週間)、那珂湊の駅やまちなかを中心に、ひたちなか海浜鉄道沿線や車輌内にも展示されます。またワークショップやその他関連事業の運営も行っています。 「産(主に那珂湊地区商店街、ひたちなか海浜鉄道湊線)+学(主に大学教員、大学院生、大学生)+芸(アーティストおよび美術関係者)」の三者からなる実行委員会により運営されており、芸術表現と地域との協働によるまちの活性化を目的として活動しています。 2009年に第一回を開催し、MMM2019では11回目の開催となります。

●Webサイト

【Webサイト】https://minato-media-museum.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/minato.media.museum

【Twitter】https://twitter.com/minatom_m

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