MMM2019 コンペティション受賞作品

※2019年度の内容です。

大賞

佐々木樹/Miki SASAKI 「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」

ステートメント

本展では茨城県立那珂湊高等学校の生徒を対象に、学生それぞれにとっての「那珂湊らしい場所/風景/色合い」に関して、質問紙による統計調査を行った上で制作を行った。 本展での制作の目的は、学生それぞれが抱く那珂湊に対する個人的記憶あるいは経験の集積とそれらの統計化を通して、個人的記憶と集合的記憶の境界について定性的かつ定量的に考察することにある。那珂湊高等学校に在学する学生たちの多くは卒業後、進路の関係から那珂湊を離れる傾向にあるという。彼らがある時どこかでふと高校生活を思い返す際に、本作品がそれを鮮明にさせる記憶の基点に建つものとなれば幸いである。

◎ 筆頭制作者 ◎ 佐々木 樹

○ 共同制作者 ○ 今宿 未悠、高瀬 立樹、高田 彩加、羽賀 優希、山口 恵里佳

□ 破損発見者(報告日時: 2019年8月24日23時) □ 荒木 栄、鈴木 雄大、山口 恵里佳

△ 修復者(修復日時:2019年8月26日17時) △ 佐々木 樹、山口 恵里佳

選評

制作活動を通して那珂湊の高校生と関わりを生み、スタッフと一緒に作業を行い、町の多くの方々(特にMMM関係者ではない方々)の目にとまる場所に作品を設置したことで、非常に多くの「つながり」を生んでいたように見受けられた。また高校生自身の過去と未来、まちの過去と未来の「つながり」を生む作品でもあり、総体として非常に良質な「つながり」と問いを多く残した作品であったのではないだろうか。制作物の表現としては、コンセプトに対してややわかりにくい印象を受けたが、少しずつ水を吹きかけるという行為を通じて鑑賞者に気づきを与える仕掛けが効果的で、写真の貼り合わせも随所に工夫が凝らしてあるように見受けられた。「もこもこつながる」アプローチの厚みと、表現の完成度を合わせて、大賞にふさわしい作品であると判断した。

審査員特別賞

増田荘は音を出してはいけない 「あんこう♡もこもこあんこう♡」

ステートメント

一緒に写真を撮ると幸せになる大きなあんこう作りました!

選評

「ナカミナトリアンコリカルパレード」として巨大アンコウをトラックに乗せて練り歩いたり、那珂湊でも最も人通りが多いと思われるおさかな市場にぶら下げるかたちで設置したりするなど、かなりアグレッシブな展示活動を行っていた。なかなか実際に「バズる」(作者のステートメントから引用)ことを狙う≒地方でも大衆受けするものを、普段アーティストとして制作活動を行う作者が矜持を持って制作することは並大抵のことではない。しかし実際に、通りがかった親子がそのパネルを見て一緒に写真を撮る、といったリアルな「つながり」を多数生んでいた。Instagram上でのコミュニケーションの努力も評価したい。アンコウによって実際に「もこもこつながる」ことがどれくらい起きたのかは観測が難しいが、普通のアートイベントでは発生しないような「つながり」を那珂湊で生もうとした姿勢は、他の作品から頭ひとつ抜けていたと感じ、高く評価したい。

各地域賞

※各地域賞における選評は、那珂湊の皆様によるものです。

ひたちなか海浜鉄道賞

奥田祥吾 「Feeling of the waves 2019 -波と雲と心よ、融和せよ-」

折田千秋 「image picture」

選評

奥田さんは、那珂湊駅ホーム全体を使った「波」の中に潜む写真やコメントが、一般の方にも分かりやすい作品に感じました。

折田さんは、運航車両内において、車窓の情景に溶け込む作品が印象的でした。

おらが湊鐵道応援団賞

伊藤沙織 「かっぱのきもち・おひとついかがですか」

もにぃ 「そして想像し逢う」

選評

伊藤さんの「カッパ」は昨年に引き続き、駅を訪れる人たちに癒しを与えてくれました。

もにぃさんの作品からは、目には見えない「繋がり」を表現した作品に強いメッセージ性を感じました。

まちづくり3710実行委員会賞

君嶋海裕 「六脚ブロック積み木」

Daichi Ogawa 「snow crystallography」

選評

3710屋及びその近くにあるブリアンにて作品を展示いただきましたお二人に賞を送ります。

ドゥナイトマーケット実行委員会賞

中村やす 「那珂湊はいいぞ!2019」

佐々木樹/Miki SASAKI 「《Material poetry》 ー 〈Topographic flags〉| NAKAMINATO / high school (2019) 」

選評

中村さんは、シンプルに那珂湊の良さを感じ取ることができる作品が気に入り、以前常磐大学のM4としてドゥナイトマーケットにご協力いただいていたことから選出しました。

佐々木さんは、那珂湊内の公園3か所に地域の学生と共に作ったフラッグが印象的で、学生も一緒に盛り上げていただいているドゥナイトマーケットと共通するものを感じました。

那珂湊焼きそば大学院賞

A+you 「運動と建築とこどもの夢」

WACHAWACHA 「発想はわちゃわちゃとしたところから」

選評

A+YOUさんの廃材等を利用した動きのあるユニークな作品と、WACHAWACHAさんは「わちゃわちゃしたところ」から作品を生み出すという発想に斬新さがポイントとなりました。

みなとみらいプロジェクト実行委員会賞

那珂湊第一小学校ワークショッププロジェクト 「ヘッドマークデザインワークショップ・BANKOKKI」

植田爽介 「C.C.W」

選評

湊一小の作品ですが、4年生の皆さんが車両前後に取り付けられるヘッドマークと、5年生の皆さんが駅に飾るフラッグを作成して下さいました。

植田さんは、人同士の繋がり、未来への繋がりを、この百華蔵というコミュケーションスペースで表現し、「未来」の点で当実行委員会と共通するものを感じました。

那珂湊本町通り商店街振興組合賞

HiroYuki Studio 「IN A DREAM」

おさむシアター

選評

HiroYuki Studioさんは、個性豊かな多くのキャラクターが織りなす独特な空間が魅力的でした。

おさむシアターさんは、おさむが亡くなったことが地域の大きな話題となったことから選ばせていただきました。

ひたちなか商工会議所那珂湊ブロック賞

増田荘は音を出してはいけない 「あんこう♡もこもこあんこう♡」

Digital Hospital Art Project 「Digital Hospital Art」

選評

「増田荘は音を出してはいけない」さんは、なんといっても、おさかな市場に置かれた巨大なあんこうのオブジェが印象的で、そのインパクトが大きなポイントとなりました。

Digital Hospital Art Projectさんは、恵愛小林クリニックさんの施設に展示された作品が患者の皆様へ癒しを与えているように見えました。

ハートケアセンター賞

鯨雄作&藤田崇文 「ワキオコルトコロ」

選評

人の行き交う駅と、情報の流れを照らし合わせたカラフルなブロックたちが那珂湊駅を彩る様に感動しました。

総評

私は、新しい技術を活用した広義のメディアやローカルコミュニティについて研究したり、それらにまつわる企画や新規事業の開発をしたりしている者です。IAMASというメディア・アートを起源に持つ学校の出身であり、インタラクティブな作品の制作や小さな賞のノミネート経験もありますが、アート評論の専門家ではありません。その中で私をこうした企画の審査員として選んで頂いたということは、単にアートの領域に留まらない、領域横断的な活動を重視したいという意思の現れであると解釈しております。こうした機会を頂き非常に感謝しております。

 まずはじめに、こうした那珂湊という場所において、地域の方々やスタッフの方々とともに作品を制作するという取り組みとして、いずれの作品も大変素晴らしいものであったということはお伝えしておきたいです。そして今回の審査は、短い期間でできる限り多くの情報を得て、多角的かつ総合的に判断することを心がけて行いましたが、期間全編を通して関与していたわけではありませんし、あくまでも私個人の価値判断の範疇を出ていない可能性が大いにあることもお伝えしておきます。

 今回のテーマ「つながる。もこもこつながる。」については、作家/まちの人/スタッフ/鑑賞者 の4者が、MMMを通して「もこもこ」とつながっていくことを目指す、という思いが込められているとお伺いしました。その中でも特に、過去10年間のMMMの活動においてもなかなか繋がりができていなかった、「つながる」ハードルが高い方々ともつながっているような作品がいくつかあったかと思います。上記作品以外にも甲乙つけがたいものが多数ありましたが、最終的には相対的により高い壁を超えた「つながる」ことのチャレンジに敬意を表し、あの日購入した干し芋を味わいながら評価をいたしました。

 結果として作品の表現そのものよりも、プロセスや表現方法を重視したようなかたちになりましたが、いずれも表現物としてのクオリティが高いものが多かった印象で、表現だけでは評価がつけにくかった結果であるようにも思います。一方でコンセプトの強さがあるものもいくつかありましたが、「つながる」方法としてもう一歩踏みこむ余地がありそうであったり、表現物や体験としてさらにブラッシュアップを期待したいものである印象を受け、今回の評価に至りました。

 イベント全体については、これまでのMMMと那珂湊の密で深い関係を展示の随所に感じましたが、まちの方々とつながっていく方法や、その工夫の余地はまだまだあるのではないかと感じました。スタッフのメンバーと一緒におさかな市場で信じられないサイズの牡蠣を食べましたが、そうした那珂湊の素晴らしい点は、外から来てしばらく滞在している人たちがもっともっと掘り起こすことができるのではないかと思います。アーティストやスタッフの方々が、様々な取り組みを通してさらに積極的にまちとつながっていくことで、より新たな協力者や利用場所の可能性が生まれ、アーティストやスタッフ、そしてMMMの取り組みの可能性をもっともっと広げていけるのではないでしょうか。

 つい先日も別の地域のアートイベントであったように、小さなひずみが一気に広がり、大きな断絶を深めていく現代。それでも、これまで11年歩み続けてきたMMMと那珂湊の関係をさらに有機的に発展させていくために、これからもMMMを通じて様々な「つながる」チャレンジが、他のどこにもない取り組みとして続けられていくことを期待し、楽しみにしております。

 

追記コメント

「佐々木樹さんの作品が人為的に壊されていた」というMMMからの発表を拝見しました。私自身は作品の製作者でも、このイベントの運営者でもないので、その痛みのすべてを察することはできないのですが、非常に痛ましい気持ちであることは容易に想像ができます。今回MMMに関わりを持った者として、その痛みにはできる限り寄り添うことができればと思います。なお今回の審査に関しては、公式からの発表が出る少し前には審査結果を事務局にご連絡しておりましたので、審査内容自体はこの出来事とは基本的には関係がないことを書き添えておきます。

 以下、審査内容と同等に、私個人の意見です。

 あえて具体的な内容は差し控えますが、公立の小中学校のような多様な人々が入り交じって生活する場において、自分が良いと思って表現したことが、一部の影響力を持つ個人あるいは集団の暴力によって排斥される、といったことは、多くの人に経験があると思います。また自分と性質や属性の異なる、自分が属しているものよりも小さく弱い相手を攻撃することでしか、「自分は存在していてもいいんだ」という実感を得ることができない人も、世の中には相当数います。

 ここからわかることは、「社会的な要因で(マズローの欲求5段階説における)低階層の欲求が満たされていない人々に、知性や想像力に満ちた対話を求めることには限界があり、たとえ対話が成立したとしても、すべての人間が何もかも分かり合うということはできない」ということです。見方の違いで見えるものが変わるだまし絵があるように、あらゆるものには様々な見方・見え方が存在します。そしてそのどれもが、「知性的な正しさ」とは全く別の軸で、その閉じた世界においては正しいものです。そこで生じる対立については、特に人口が少なく集団が見えやすい地方においては、避けて通れないものであると、北海道の過疎地域で活動し続けている私は考えています。

 しかし、分かり合うことができないからといって、暴力は社会をよりよい方向に導くものではありません。そしてもちろん然るべき手段で暴力に対抗することは必要ですが、暴力を用いる人々に「暴力はよくないことです」と語りかけることも何一つ意味をなさず、分かり合いを生むことにも繋がりません。それは運営に関わる多くの方々も認識していることでしょう。

 然るべき手段のほかに私たちのできることは、「それでも、愛を持って、続ける」ということしかないのではないかと思います。もちろんすべての人がすべてのことを受け入れられるわけではないし、そうあるべきとも思いません。しかし、少なくともMMMの11年間の取り組みを応援してくださっている人は多数いることは間違いなく、それはMMMの活動に対して対抗的な思いを持つ人の数より圧倒的に多いのではないでしょうか。そうした方々は、MMMの活動がさらに前向きに、知性ある方向へ発展していくことを強く望んでいるはずです。そうしたことから、少しずつ世の中は良い方向に向かっていくのではないかと私は考えていますし、そうであると信じたいです。

 もちろん私自身が心血を注いだ作品やイベントに同じようなことが起きたとき、このような考えでいられるかどうかはわかりませんし、その痛みは想像を遥かに超えたものなのだろうと思います。しかし審査員を担当いたしました身として、あえてMMMへのエールとしての言葉を追記として送りたいと思います。

 最後に、英文学者の吉田健一の言葉と、哲学者のネルソン・グッドマンの言葉を書き添えておきます。

「戦争に反對する唯一の手段は、各自の生活を美しくして、それに執着することである。」

「代替可能な世界をすすんで認める態度は、探求の新しい大道の通行を自由にし、そうした大道の所在を示唆するが、とはいえあらゆる世界をなんでも歓迎する態度からは何ひとつ世界は作り出されないことを付言しておこう。」

佐野和哉

1991年北海道遠軽町生まれ。新卒で株式会社博報堂にて営業として勤務した後、岐阜県立情報科学芸術大学院大学(IAMAS)に進学。在学中に研究の一環で北海道オホーツク海側地域にまつわるウェブメディア「オホーツク島」を立ち上げ、地域コミュニティとウェブメディアに関する研究を行う。修了後は再び企業にて大企業の新規事業企画に携わり、2018年よりフリーランスのBizDev/Technologistとして、主にスタートアップのPM/事業開発を行う。2019年4月にタバブックスより「田舎の未来 〜手探りの7年間とその先について〜」を出版。また個人事業として空き家活用型宿泊施設「オホーツクハウス」を展開。

過去の受賞作家

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