MMM応援記事 #2 – 折田千秋さん
那珂湊で芸術をつくること、そしてこれから。
今回はみなとメディアミュージアムについての紹介及び応援記事を書かせていただきます。
私がみなとメディアミュージアムに参加したのは2019年の夏になります。まずはその時に出展した作品を現地での様子も交えながら紹介します。
私の作品をつくる上でのステートメントは、人ともの、人と空間などの関係性に注目しその結びつきの多様性を再構築することです。このときに制作した作品『Image picture』は、とある風景を切り取りその印象の色を地元の人に選んでもらい、グラフィックでまとめた作品になります。
みなとメディアミュージアムが開催される茨城県ひたちなか市那珂湊地区には、片道30分ほどの距離を走る「ひたちなか海浜鉄道湊線」通称「湊線」の列車が走っています。ひたちなか海浜鉄道の車窓から見える、黄緑の稲、茂った木々、青く広がる空。こののどかな風景がひたちなからしい風景だと感じました。
この景色を構成する空・森・田んぼの印象に残った色を抽出してもらい、印象の写真=『Image picture』を制作しました。那珂湊駅でいろんな人に声をかけこの列車を利用する36人に協力をお願いし、さまざまな色の『Image picture』を集めました。
集まった色味はどれも違うもので、多様性に富んでいてとても面白いです。「空といえば青」と言葉では一つに集約されてしまうものの、人々が感じ取っている印象は人それぞれということがわかります。
36枚の『Image picture』を見比べてみると、どんなに色味が似ていても、全く一緒というものは存在しないということがわかります。一人一人が感じる印象はまるで違い、自分の見方が唯一なのだと教えてくれます。
私のウェブサイトから全ての『Image picture』をご覧いただけるので、ぜひその多様性をご覧ください。
http://chiakiorita.com/works/each/nakaminato.html
また、Image pictureをパネル化したものを実際に運行列車の車窓に飾り、リアルな風景と誰かのイメージが重なる瞬間が生まれるような展示構成にしました。
実際の展示風景の様子はこちらからご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=JOLGcP6Ppuc&feature=youtu.be
地元の人々と関わった思い出話も紹介します。制作のために那珂湊駅に2日間ほど常駐していたときに多くの出会いがありました。
那珂湊駅は小さな駅ですが待合室はしっかりとした広さがあり、列車が訪れる時刻が近づくにつれ、待ち人の数が増えていきます。
列車から降りてくる旅人、列車を待つ学生、おばあちゃんと一緒に遊びに来た子供達、様々な人がこの場所を利用していました。
そこを訪れた人々に声をかけ、田園写真を見せながら印象の色を選んでもらいました。
「もっと綺麗に晴れる日があるの。」と、お母さんは真っ青な空を選びます。
オレンジの空を選びながら「晴れてる日は夕焼けが綺麗なんだ。」とお兄さんは語ります。
「空はピンクで田んぼは青。特に意味はないけど直感!」と、ストレートに言葉を発する女子高生。
会話はままならずとも、楽しそうにビビッドな色を選んでくれた小さな男の子の兄弟。
他にもたくさんのやりとりがありましたが、書ききれないためここでは割愛します。
一人一人と対話し、風景と改めて向き合い、印象の色を聞き出しました。そしてこのやりとりを36人分行いました。
もちろん全てが順風満帆といったわけではありませんが、那珂湊での体験として全てが記憶に残っています。
作品制作の上で、鉄道車両内に展示できたことも貴重な体験でした。
私の作品では風景写真を用いることが多いのですが、展示する場所にこだわりがあります。
風景を切り取った場所で制作物を展示すること。できるだけこの条件で展示できるように心がけています。
当初は那珂湊を散策し町中で展示できたらと考えていましたが、ひたちなか海浜鉄道さんのご協力のもと湊線車内でも展示できるということで切り取る風景及び展示場所が決まりました。
展示風景を決めることは案外難しく室内での展示でも制約などは多いのですが、今回はひたちなか海浜鉄道という舞台でその場所でなくてはできない展示を行うことができ、作家としても大変満足した場所での展示ができたと思います。
ひたちなか海浜鉄道では車内の展示だけでなく、ホームや待合室、使われていない車両などでも展示をすることができ、地域芸術祭に対しての懐の広さがうかがえます。
他にもみなとメディアミュージアムの期間中は様々な場所で展示をすることができます。公園内やコミュニティースペース、海辺など那珂湊地区のあらゆる場所で(許可が下りれば)展示することができます。
開催10年以上ということもあって、展示に協力的な場所が多くあり、作家側としてもその場所ならではの価値が見出せるのではないでしょうか。
作品を展示する上で、MMM実行委員のみなさまにも多大な協力をしていただきました。
実際に運行している列車の車両内で展示をしていたのですが前日にならないと運行状況がわからないため、現地に滞在しているMMM実行委員が駅員さんを訪ね運行時間を把握してくれていました。会期期間中つねに滞在することが難しかったため、大変ありがたかったです。アーティスト一人につきMMM実行委員一人がサポートしてくれるため、不測の事態にも対応しやすかったと思います。このようなサポート体制も制作・展示の上では助かりました。
みなとメディアミュージアムでは、このように実行委員が組織運営をしていますが、そのほかにも地元の人々の力添えも大きいところがあります。
毎年のアーティストへの賞金の一部などは地域からの出資金であり、協力をしてくださる地域の人々なくしては成り立たないそんな芸術祭なのだと実感しました。
現在日本では地域芸術祭のブームが起こっています。地域ごとでトリエンナーレやビエンナーレが開催され、毎年日本のどこかしらで地域に根ざしたアートを体験できるようになっていますが、その多くは市や県、自治体が企画運営しています。それらと比べて、みなとメディアミュージアムの運営体系は珍しいのではないでしょうか。
実行委員には、さまざまな方が関わっています。茨城県内で活動をしている実行委員もいれば、都内から通う実行委員もいます。地区の内外から人が集まり運営することで多様な視点を得られているのかもしれません。また学生においては、この地域芸術祭を通して企画・運営だけでなくアートや地域のあり方を実感できる良い機会なのではないでしょうか。学校の講義では得られないまちの在り方を体験する貴重な場になっているでしょう。
2019年に10周年を迎えみなとメディアミュージアムは今後も継続した開催を期待されていましたが、2020年に訪れたコロナ禍において中止を余儀なくされました。この芸術祭に限らず多くの催しや企画が中止とならざるをえませんでした。
ただこのコロナ禍の1年を振り返ってみて、私たちのライフスタイルは大きく変容し仕事もプライベートも新しい人との関わり方が生まれました。
物理的に距離感を保った生活行動だけでなく、オンラインがもう一つの生活空間となる体験を多くの人が経験したはずです。
会議やウェビナーなどはPCを経由して行われ、時間をかけずとも他者と対話し情報共有ができるようになりました。
アート業界においては、今まで美術館で行っていたイベントをVR空間に置き換えて開催したり、展示空間を3DVRで提供したりと、作品の見せ方や展示の在り方の選択肢が増えたように感じます。私が参加したイベントや展示でもそのような試みが行われており、新しい時代の到来を感じました。
作品を鑑賞する上ではリアルな空間の方が質感やサイズ感などの情報を感じ取りやすいという長所がある一方で、オンラインではその場から接続できるということで距離の制約が無くなるという利点や、動画作品などは現地鑑賞での差異がほとんどないなどの利点があります。
必ずしも新しい技術が素晴らしい体験を生むとは言い切れませんが、挑戦することによって新たな価値を見出したり次のステップを踏み出したりする機会を見つけることができます。
コロナ禍という災厄を通過する上で、地域芸術祭としても何か変容する部分があるのだろうかと考えております。
折田千秋
1993青森県生まれ
2016静岡文化芸術大学デザイン学部卒業
2018東北大学大学院工学研究科都市建築学修了