MMM2019アーカイブ連載 第二回 折田千秋

こんにちは、MMMです。今日のブログは、MMM2019アーカイブ連載第二回目!

MMM2019アーカイブ連載は、MMM2019に参加した作家の方々が、「自分の作品について」や、「実際に展示するまで」を振り返って、書き下ろしのテキストを毎週金曜日に公開していく連載企画です!

作品を実際に見た人はもちろん、MMMって何?という人でも、作家さんの作品制作の裏側を覗いて見てください!

第2回は、折田千秋さん。MMM2019の展示では、那珂湊を走るひたちなか海浜鉄道湊線から見える風景を舞台に、利用者の風景の感じ方を可視化し、多様性を認識することを目的とした展示を行いました。折田さんは先日会期を終えた北茨城市の「桃源郷芸術祭」においても、展示場所の風景の可視化を試みる「image picture@北茨城」を展示されていたんです。そんな折田さんは、作品制作時の記憶を綴ってくれました。「image picture」はどのようにして生み出されたのでしょうか…

「image picture」 ひたちなか海浜鉄道にて。

MMM2019アーカイブ連載第2回 折田千秋

 みなとメディアミュージアムの出展がきっかけで、今回初めて茨城県、那珂湊ともに接点を持つ機会がありました。

 出展が決まった当初から、那珂湊らしさを表す作品にしようと思っていました。

 実際に那珂湊へ行くと、田舎だ!という印象が凄かったです。笑

私自身も青森の田舎の出身でしたが、地元よりも何もないような印象を受けました。

 実際は、那珂湊は海が近く漁業も盛ん、海で祭りも行われるなど、浜っ子としての気質が強いのかもしれません。ゆえに、那珂湊らしさとは海に関係するのかもしれません。

 けれど私が選んだ那珂湊らしい印象は、湊線から見える田園風景でした。

空を割るような高層ビルもなく、晴天の日に広がる若々しい田んぼの色が記憶に残りました。

 湊線のやや古びた外壁のローカル感や室内のレトロ感も良いな、と思いました。

 正直、時間や交通の便の都合上那珂湊をリサーチできる機会が少なく、あまり地域の人と関わる機会を得られなかったことが残念です。

 初めて触れた「那珂湊」というものが湊線からのアクセスだったので、その風景に心惹かれたのかもしれません。車で訪れるとまた違った那珂湊が見られると思いますが、私のように遠方から那珂湊を訪れた際に湊線を利用するひと、日常の一部として利用するひと、さまざまな湊線での那珂湊の接点があるでしょう。

 その接点がささやかで記憶に残るようなものでなくとも、那珂湊を表すものになるのではないかと思いました。

 その湊線の風景を利用し、今回作品を作ろうと考えました。

 2019年から作家活動を始め、関心を持っていたことは「認知のしかたやその違い」です。感じ方はひとにより様々でその違いは理解しているものの、改めて実感したり可視化することはないでしょう。それを作品とおして実現したいと考えていました。

 思えば学部・修士ともに最後の卒業制作では、多くの人を巻き込みその考え方や行動の違いで制作物が完成するというものでした。

 具体的には、湊線からの風景の写真をPCで見てもらい、その写真を構成する空・森・田んぼの印象の色をフォトショで選んでもらいました。印象を選ぶのは、湊線を利用する人々。今回は那珂湊駅で2日間にわたり、駅の待合室を利用するひとに声をかけ、ご協力いただきました。

 完成した印象の写真を「Image picture」と名付け、今作のタイトルとしています。

 期間中は、このImage pictureを湊線の車窓に一つづつ飾っていました。実際の風景と印象色のImage pictureを一つの車窓から重ねてみることができます。

「image picture」 ひたちなか海浜鉄道湊線にて。image pictureが風景と重なる。

 リアルと誰かのイメージが重なるとき、それを見たひとはそこに同調を覚えても違和感を覚えても良い、自分のなかにある印象と比較することが大事でそこが今作の目的と言えます。

作品を作る上で、楽しいことも大変だったっこともありました。

特に印象に残っているのは、やはり那珂湊駅でご協力いただいた皆さんと接したときです。

いろいろ思い出がありますので、思いつくままに列挙します。

とあるおじさん…MMMの活動は知っているけど、よくわからないとお叱りを受けました。いろいろ話を聞いていくと、作品に対するアドバイスをしてくださったり写真を褒めてくださったり、優しい方でした。写真をとった場所もすぐにわかったとのこと。那珂湊は夕暮れが綺麗だよと、話していました。

女子高生…ノリノリで選んでくれました。すごい個性的な色選びだったので、美術部の子かな?と思い尋ねてみると、違うとのこと。素敵な感性だったので、そのまま成長して欲しいな。

ロッキン目当てのお姉さん…オサム目当てで那珂湊に降り立ったものの、すでに他界され残念がっていました。真剣に色を選んでいました。

おばあちゃん…話しかけたら結構ですと断られました。おそらく何かの勧誘と思われた模様。怪しい人に見えますよね…。

男子高生2人組…クラスではぶいぶい言わせてそうな雰囲気の2人。でも協力してもらえました。緊張か恥ずかしいのか関わりたくないのか、あまり会話はありませんでしたが、2人の選んだ色の違いを見て、感じ方もさまざまだよな、と思いました。

男の子と兄弟とおばあちゃん…夏休み、孫と一緒に那珂湊へ。子供達は楽しみながらPCで色選びをしてくれました。一番楽しそうに色を選んでくれた!笑。子供の直感力ってすごいなと思いました。

駅で発売している濡れ煎餅をいただき、みんなで美味しく食べました。

女子高生3人組…きゃいきゃい言いながら協力してくれました。色選びが終わった後、自分との色の違いを言い合っていました。

作品を実際に作ってみて、一つ一つの違いの表れになんだか感動しました。空の印象色は似ているけど田んぼの印象色は全く違ったり、全部が個性的な色合いだったりと、全てにおいて一緒というものはありませんでした。

ひとつひとつのImage pictureを尊重しますし、ぜひ皆さんにもご覧いただきたいです。

この作品制作の仕方に関しては精度を上げた方がいいのでは、やり方が安直なのでは、と思う節もあり、これからも熟考していきたいと考えています。

そして、ひたちなか海浜鉄道という車両で展示できたことも、今回とても嬉しかったです。今回、元となる風景とImage pictureを重ねて観賞できるような場所で展示したいと考えていました。また、その場所が那珂湊らしさのある場所が良いと思っていたので、ひたちなか海浜鉄道はどちらの期待にも添えるとっておきの場所でした。

ご協力いただいたひたちなか海浜鉄道の皆さん、本当にありがとうございます!

また展示する車両は2車両だったのですが、運行状況が前日の夜にならないとわからず、展示をみること自体偶然性の高い作品でした。

現地に長く滞在することができなかったため、運行状況を確認してくださったのが、学生スタッフの鈴木君でした。本当に暑い中ありがとうございます!また鈴木君は、記録用の撮影もお手伝いいただき、湊線を何往復もさせてしまいましたね…。ありがとうございます!

ほかにも多くの方にご協力いただき、作品を作ることができました。本当にありがとうございます!


折田千秋

●プロフィール
1993青森県生まれ
2016静岡文化芸術大学デザイン学部卒業
2018東北大学大学院工学研究科都市建築学修了

●Webサイト
http://i-shikai.com/


来週1/31(金)の第三回は、A+youの櫻井さんです。櫻井さんは、茨城県建築士会青年委員会発のアート集団、A+youのメンバーで、アートを通じて建築の魅力や楽しさを発信しています。MMM2019では、那珂湊で古くから在る大谷石の蔵を活用した百華蔵を舞台に、建築廃材を用いた体験できる建築作品を展開しました。お楽しみに!


みなとメディアミュージアムとは

みなとメディアミュージアム(以下、MMM)は、茨城県ひたちなか市ひたちなか海浜鉄道湊線沿線を舞台に開催する地域アートプロジェクトです。 毎年、全国からアーティストを募集し、厳正な審査を経て、出展者と作品を選出します。出展された作品は会期中(8月中、約3週間)、那珂湊の駅やまちなかを中心に、ひたちなか海浜鉄道沿線や車輌内にも展示されます。またワークショップやその他関連事業の運営も行っています。 「産(主に那珂湊地区商店街、ひたちなか海浜鉄道湊線)+学(主に大学教員、大学院生、大学生)+芸(アーティストおよび美術関係者)」の三者からなる実行委員会により運営されており、芸術表現と地域との協働によるまちの活性化を目的として活動しています。 2009年に第一回を開催し、MMM2019では11回目の開催となります。

●Webサイト

【Webサイト】https://minato-media-museum.com/
【Instagram】https://www.instagram.com/minato.media.museum

【Twitter】https://twitter.com/minatom_m

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